コラム:『生地が暴れる』
2019.12.19
「文化を創る」
皆さん、こんにちは。
今回はコラム的内容なので、商品紹介はありません。
お時間あるときにでもどうぞ。
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さて、今回のテーマは『生地が暴れる』ということですが、
言葉だけ聞いたら乱暴な表現ですが、スーツ系の業界には
よく聞く昔からある言葉です。
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文字通り、”生地が暴れる”のですが、
どういうことかと言うと、
まず生地の構造から話しておきますと、
生地というのは、経糸と横糸が折り重なって、一枚の布になったものを言います。
そしてその経糸と横糸は、基本的にウール(毛)なので、
伸び縮みします。
それは湿度によって大きく左右されるものだったりします。
もちろん、製品になった後は、引っ張られたり、伸ばさせたりするので
生地の伸び縮み(特に伸び)は必ず起こります。
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生地(経糸と横糸を織り重ねたもの)は安定するところがあります。
すなわち、
”経糸と横糸が、何のストレスもなく、伸びも縮みもしていない状態”
のことです。
ちゃんと安定している状態で、ハサミを入れる(生地を裁断する)と、
正しく切れます。
しかし、生地が安定していない状態で、ハサミを入れると、
その後、安定の位置に戻ろうとする毛の力が働き、
切った布は、変な形になります。
1mm、2mmずれただけでも、生地としては大変なことです。
この「変な形になる」ことを、「生地が暴れる」と言います。
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例えは外れていますが、見た目の間隔で言うと、
焼肉を食べる時、網の上に載せて、熱を持っていったお肉が
キュ~~ンと丸まっていく感じとか、
イカを焼いたら、クルリンと丸まる感じとか、
そんな感覚の状態ですね。
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今回のコラムで何を言いたいかというと、
安いやつは生地が暴れてるとかお構いなしに、安く早く
プレスして、売ってるときに、平らに見えるようにして売ってるだけだよ!
ということを言いたいのです。
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生地に水分を含ませて、自然に「安定」するまで待つ。
そして、裁断したら、裁断口が暴れる。そしたら暴れたのが
また安定するまで正しい湿度で待つ。
こういった安定するまで待つという時間が、生地によっても
気候によっても大きく変わるものです。
それらを見極めて、裁断し、縫製するのです。
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じゃあ、そうすることで何が良いのか?ということです。
それは、製品になって、誰かが着た後に、きれいなラインや
綺麗な表面、きれいなシルエットをずっと保ってくれるということです。
生地を安定させた状態から、裁断し、また安定させてから縫製することで
生地本来のあるべき位置、細かく言うと経糸と横糸の正しくあるべき位置
にちゃんとあるということです。
それには、時間と手間がすごくかかります。
実は生地が暴れていても、プレスしてしまえば、ひとまずは一枚の
平らなきれいな布になります。
でもそれはそう見えるだけで、もともと暴れてるので、
裁断もめちゃくちゃだし、さらにそれを縫い合わせてるので、
誰かのものになって、誰かが着用した後は、すぐにダルダルになり、
みすぼらしいものになってしまいます。
売ってあるときは、ビシッとプレスしてごまかしてるので
平らにきれいに見えるかもしれませんが、誰かが着用したとたん
もうダルダルになります。。
特に分かりやすいのがスラックスです。スラックスには芯が無いので
生地の赴くままに変化していくので、分かりやすくしょぼいパンツに
なっていきます。
確かに安いし、早いし。そのメリットはあります。
ただし、買った直後、着た直後から、すぐに廃れていくものが
あまりにも多く存在します。
どこのクラスを自分が着用するかはもちろん人次第ですが、
ブランドネームに頼って、中途半端に安いものを買うほど
無駄使いなことはないと思います。
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安定していない(生地が暴れる)生地を、裁断し、それをさらに
縫製する。考えるだけでもおぞましい光景です。
あとはバシバシのプレスと、ブランドネームタグをバシッと。。。
いい物を楽しもうとする方には、決しておススメしないモノです。
(*もちろんそのブランドがどうしても好きな方は別ですが)
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今回は『生地が暴れる』についてでした。